決断を鈍らせた”周囲の目”とプライド

廃業を決断するまでには、約10年かかりました。
撤退に踏み切れなかった理由の一つに、経営者としてのプライドと周囲の目があります。
僕は29歳で業界に参入したのですが、年配の同業者に白い目で見られたものでした。そんな中で業績を上げ会社を成長させた自負もありましたし、彼らへの闘争心もあったと思います。
また業界の中で同業者が倒産すると「あそこは商品がいまいちだったから潰れた」などと、よく知りもしないのにひどい言い方をする同業者を見てきました。もし自分が廃業する立場になれば、同じように「ほら見たことか」と言われるだろうと薄々わかっていました。
だから業界を去ると決めるには、大変な勇気が必要でした。
会社と経営者は「一蓮托生」か
その決断を妻へ打ち明けるのにも苦労しました。「会社をやめたら収入はどうするのか、次に何をするか」の答えもなく、家族を不安にさせることがわかっていたので。
自ら命を絶ち、家族に生命保険金を残そうと考えるほど精神的に追い詰められた時期もありました。
そんな時、SNSで「借金で死を考えている人へ」という書き込みを見つけたんです。
「生きていく術は世の中にいくらでもある。本当に生活に困ったら生活保護を受けて、生きてください」と訴えかけるメッセージに「確かにそうやな」と我に返りました。もっと冷静に考えれば、他にもできることがあるんじゃないかと。

つらい気持ちを抱えている方は、ひとりで抱え込まず相談してください。電話やLINEで相談できる窓口が、厚生労働省「まもろうよ こころ」にまとめられています。
銀行の融資を延滞していたわけではありません。けれど、ここで会社を廃業し、自己破産することで、10年間悩んでいたことの答えになるな、そのほうが自分の人生にとって価値があると思えたんです。
そんな僕を見ていた妻が「今まで一生懸命頑張ってきたんやから、もうええんちゃう?」と声をかけてくれました。
彼女は会社経営には直接関わっていませんでした。しかし常日頃から取引先との出来事や業務のトラブル、市場などについて話していたので、察してくれたのでしょう。僕が長年苦しむ様子を見ていたからこその言葉に背中を押され、弁護士へ相談できました。



会社に借金(債務)が残っていて返しきれない場合は、倒産・自己破産などの法的な整理が伴います。中村さんの場合は資産を処分しても銀行の借入金を全額返済するには不足していたため、破産手続きを選択されました。




